回路設計においてノイズの影響を抑えることは非常に重要です。
そこで活躍するのが 「フィルタ回路」
しかし、フィルタ設計が適切でないと誤動作を起こして思わぬトラブルに繋がります。
本記事は、抵抗とコンデンサのシンプルなローパスフィルタ設計について記載します。
ローパスフィルタとは
ローパスフィルタ(LPF:Low pass filter)は 低い周波数帯域をほぼそのまま通過させ、高い周波数帯域の成分を減衰させるような特性 をもちます。
そのため高周波ノイズを減衰させる用途で使ったりします。
その他にフィルタの遅れ特性から急峻なステップ信号を鈍らせる用途にも使います。
回路構成
RC ローパスフィルタは直列抵抗と並列コンデンサで構成します。

理論式
電圧方程式
入力電圧 \(V_{\text{in}}\) 出力電圧 \(V_{\text{out}}\) 電流 \(I\)
$$ V_{\text{in}} (s) = \left(R+ \frac{1}{sC} \right) \cdot I(s) $$
$$ V_{\text{out}} (s) = \frac{1}{sC} \cdot I(s) $$
伝達関数
$$ G_{\text{lpf}} (s) = \frac{ V_{\text{out}} (s) }{ V_{\text{in}} (s) } = \frac{1}{1+sRC} $$
カットオフ周波数・ゲイン・位相
$$ f_{\text{c}} = \frac{1}{2 \pi RC} $$
$$ \left|G_{\text{lpf}} (\omega) \right| = \left|\frac{1}{1+sRC} \right| = \frac{1}{\sqrt{1+(\omega R C)^2}} $$
$$ \angle G_{\text{lpf}} (\omega) = \tan^{-1} \left(\frac{- \omega RC}{1} \right) $$
設計計算
例として、50Hz の基本波に重畳する 10kHz のノイズ減衰を想定します。
抵抗 1kΩ、コンデンサ容量 100nF で計算してみます。
$$ f_{\text{c}} = \frac{1}{2 \pi \cdot 1 \mathrm{k} \Omega \cdot 100 \mathrm{nF}} = 1.591 \; \mathrm{kHz} $$
$$ \left|G_{\text{lpf}} (\omega) \right| = \frac{1}{\sqrt{1+(2 \pi \cdot 50 \mathrm{Hz} \cdot 1 \mathrm{k} \Omega \cdot 100 \mathrm{nF})^2}} = 0.9995 $$
$$ \left|G_{\text{lpf}} (\omega) \right| = \frac{1}{\sqrt{1+(2 \pi \cdot 10 \mathrm{kHz} \cdot 1 \mathrm{k} \Omega \cdot 100 \mathrm{nF})^2}} = 0.1572 $$
$$ \angle G_{\text{lpf}} (\omega) = \tan^{-1} \left(\frac{- 2 \pi \cdot 50 \mathrm{Hz} \cdot 1 \mathrm{k} \Omega \cdot 100 \mathrm{nF}}{1} \right) \cdot \frac{360}{2 \pi} = -1.799 \; \mathrm{deg} $$
まとめるとフィルタ特性は下表になります。
カットオフ周波数 | 1.591 kHz |
振幅ゲイン(50Hz) | 0.995 倍 |
振幅ゲイン(10kHz) | 0.1572 倍 |
位相遅れ(50Hz) | -1.799 deg |
ボード線図
ボード線図で振幅特性と位相特性を確認します。
振幅特性グラフの縦軸は dB なので導出したゲインを単位 dB にします。
$$ 20 \cdot log_{10} (0.9995) = -0.004 \; \mathrm{dB} $$
$$ 20 \cdot log_{10} (0.1572) = -16.07 \; \mathrm{dB} $$


ボード線図より計算とシミュレーションがほぼ一致することが分かります。
LPF シミュレーション
回路シミュレーションでノイズ成分が実際どのように減衰するか確認します。
条件
シミュレーション条件を下表とします。
RC ローパスフィルタで 10kHz のノイズ成分の減衰を確認します。
基本波成分 | 振幅 200V 周波数 50Hz |
ノイズ成分 | 振幅 50V 周波数 10kHz |
コンデンサ容量 | 100 nF |
抵抗値 | 1 kΩ |
回路構成
基本波成分にノイズを重畳させるように交流電圧源を直列に配置しています。

シミュレーション波形

カットオフ周波数より低帯域の 50Hz はそのまま残り、高帯域の10kHz のノイズ成分は振幅がだいぶ減衰しているのが分かると思います。
このように LPF は低い周波数帯域をほぼそのまま通過させ、一方で 高い周波数帯域の成分を減衰させるような特性 をもちます。
設計の注意点
除去ではなく減衰
フィルタは ノイズを除去ではなく減衰させる 点に注意しましょう。
ここの捉え方を間違えてしまうと失敗を招きます。
高周波ノイズは完全にゼロになるわけではない です。
なので 影響を取り除きたい成分の周波数を明確化(把握) することが重要です。
さらに、どこまで減衰させるかも明確にしましょう。
減衰後のノイズが重畳してもシステムが誤動作しない設計 が重要です。
低域の位相遅れ
低域の基本波成分の位相が遅れる点にも注意しましょう。
例えばインバータ制御における検出回路の LPF でカットオフ周波数が基本波成分に近いと位相遅れが大きくなり制御系への影響が大きくなります。
まとめ
ノイズの影響を抑えるためのローパスフィルタ設計について書きました。
フィルタ特性を設計する際は以下の点に注意が必要です。
- フィルタはノイズを除去ではなく減衰させる。
- 高周波ノイズは完全にゼロになるわけではない。
- 低周波域の基本波成分も位相が遅れる。
そして
「抑えたいノイズ成分」
「残したい基本波成分」
を十分に考えたうえでフィルタの特性を設計することが重要です。